6-2解除
契約を解除するとどうなる?第三者との関係は?
1 解除とは
解除とは、契約の当事者の一方からの意思表示によって、契約を初めからなかった状態に戻すことだ。 一度解除すると撤回できない。話がややっこしくなるからだ。契約を解除すると、受け取った受け取った品物やお金を返し合い、相手を契約前の状態に戻さなければならない(現状回復義務)。お金を 返す場合は、安領の時からの利息をつける必要がある。お金が手元にあった期間中ずっと、運用が可能だったことになるので、その間の利息を返さなければ、契約 前の状態に戻したことにはならないからだ。売主・買主双方の原状回復義務は同時履行の関係に立ち、相手が返せない限り返さなくてもよい。
2 解除すると、第3者との関係はどうなるのだろう!
AがBに建物を売却した場合を例にみていこう。1 解除前に第三者が登場した場合
Bが第三者Cに転売し、その後、Bの債務不履行を理由に、Aが契約を解除したとする。 この場合、第三者Cが登記を備えていれば、建物はCのものだ。登記にのある第三者の権利を害して迄、現状回復をすることはできないのだ。
これに対して、Cが登記を備えていまい場合は現状回復が優先され、建物はAのもとに戻ってくる。
Cが登場したときにはまだ解除がされていないのだから、Cの善意・悪意は問題ない。
すでに学習したとおり、詐欺取消し前の第三者や虚偽表示における第三者が保護されるためには、「善意であること(詐欺取消の場合、無過失)」が 必要だった。これに対し、解除前の第三者の善意・悪意が問題視とされないのはなぜだろうか。
「無効・取消し」は、契約時にすでに詐欺や虚偽表示などの問題が発生している。したがって、第三者がそれを知って購入したのか、あるいは知らずに購入したしたのかという点が 問題になる。
これに対せて、「解除」は、契約時にはなんら問題なく、契約後に生じた債務不履行等を原因としてなされるものである。したがって、第三者が購入した 時点では、解除原因となる債務不履行が必ずしも生じているとは限らない。よって、第三者が保護されるかどうかは、善意なのか悪意なのかではなく、「登記」 を備えているかどうかで決める。
2 解除後に第三者が登場した場合
Bの債務不履行を理由に契約を解除したAが、登記を取り戻す前に、Bが第三者Cに転売したとする。 この場合、建物は、AとCのうち先に登記をしたほうのものだ。AはCが登場する前に解除しているのだから、登記を回復しようと思えばできたはずだ、にもかかわらず、 C先に登記されてしまったのであれば、Aは負けても仕方ない。なお、Cの善意・悪意は問わない。
6-3 手付
解約手付を使った解除(手付解除)ついて押さえよう。
1 手付とは
手付とは、売買契約締結の際、買主が売主に交付するお金のこと。損害賠償の予定としての手付、違約手付、解約手付などの種類があるが、どれと決めずに手付が交付された 場合は、解約手付と推定される。2 解約手付とは
「万が一契約がイヤになったら、お互いこの手付を使って解除しよう。」「そうしよう」このように、お互い納得の上で、買主が交付する手付を解約手付という。解約手付を使えば、相手が債務不履行をしていなくても、自己都合解除できる。たとえば、 解約手付100万円を交付している場合、買主はその100万円を放棄すれば解除でき(手付放棄)、売主は、倍額の200万円を返せば解除できるのだ(倍額の現実の提供)、 解除された側が、別途損害賠償の請求をすることはできない。お互い納得ずくの話だからである。
では、買主が売主のもとに中間金を持参sぢた後、売主から手付の解除(手付解除)ができるだろうか?
買主は、契約の履行に向け、すでに一歩を踏み出している。これを履行の着手という。この段階で売主が手付解除すると、買主の7行為が無駄になって しまう。そのため、相手方が履行に着手した後は、着手解除はできないことになっている。なお、自分が履行に着手しているかどうかは問わない。
8 弁済
債務者でない人が弁済したら? 債権者でない人に弁済そたら?
1 弁済とは
弁済とは、「債務者が約束を果たすことにより、債権が消滅すること」だ。お金をかりているなら「お金を返すこと」、物を売ったなら「その物を引き渡すこと」だ。2 債務者でない人が弁済できるだろうか?
名演奏家が負う「コンサートで演奏する債務」を、一般人が変わりに弁済したら(つまり、代わりにコンサートで演奏したら)、観客は怒り出すだろう。このように 「その債務者」が弁済しないと意味がない債務については、第三者が弁済できない。また、当事者間で、「かならず、債務者であるあなたが弁済してください。」「はい、債務者である 私が弁済します。」という取り決め(第三者弁済特約)がなされている場合も、第三者は弁済できない。しかし、上記のような特殊な事情がない限り、原則として第三者も弁済可能である。ただし、債務者が「俺の債務だから勝手に支払うな」などと、弁済されることを 嫌がっている場合は話が別だ。この場合に弁済できるのは、正当な利益を有する第三者だけだ。意外なことに、債務者の親・兄弟や友人というだけでは正当な利益を有するとは いえず、弁済できない。これに対し、物上保証人・抵当不動産の第三者取得者(13章で学習)などは、債務が弁済されないと抵当権が実行されて財産を失う危険があるため正当な 利益を有するとはいえ、債務者の意思に反して弁済できる。、
3 弁済による代位
保証人Cが代弁した場合、「建て替えた金を返せ」と債務者Bに請求できる。これを求償という。しかし、おとなしく求償に応じるBであれば、とっくに債務者に弁済 しているはずだ。Bが弁済しなかったからこそ、Cが弁済する羽目になったのである。このようなBに求償するするのは、並大抵の苦労ではないだろう。しかし、債務者 Aは「抵当権」と「保証人C」という二つの武器を持っていたが、(現に、Cの代弁によって満足を得ている)。Cには何の武器もない。しかし、心配はいらない。Cは、債権者Aが持っている武器を、Aに代わって使うことができるのだ。たとえば、Bが求償に応じない場合、Cは債務者Aが持っている 武器を、Aに代わって使うことができるのだ。たとえば、Bが求償に応じない場合、CはAが持っている抵当権を実行して、弁済分を回収することができる。これを 弁済による代位という。「代位」とは、位をAに代わること」、つまり、空席になった「債務者Aのイス」にCが代わってすわることだ。
債務者に代位するにあたり、債務者への通知又は債務者の承諾は必要だろうか。(連帯)保証人・連帯債務者・物上保証人など。弁済 する者が代弁した場合は、通知または承諾がなくても債務者に代位できる。(法定代位)。 債務者の親・兄弟・友人など、弁済をするにつき正当な利益を有しない者が弁済した場合は、通知又は承諾がないと債務者に代位を対抗できない(任意代位)。
4 債務者でない人に弁済したばあい(第三者に対する弁済)
弁済を権限のない人に弁済しても、原則として無効であり、債権は消滅しない。よって、本当の経験者に弁済しなおさなければならない。では、領収書を持っている集金に来た人を債権者だと信じ込んで、代弁してしまったらどうか?この場合、弁済有効であり、債権は消滅する。
領収書の持参人等のように受領権者として外見を有するものに善意かつ無過失で弁済した場合は有効になるのだ。
9 契約不適合責任
買ったものが契約の内容に適合しない場合、売主に何か言えるのだろうか。
1 契約不適合責任とは
売買契約の売上が買主に引き渡したものが、契約内容に適合していないものであった場合、売主は買主に対して様々な責任を負う。売主が負うこれらの責任を 「契約不適合責任」あるいは、「担保責任」という。契約不適合の種類には、目的物の「種類」「品質」「数量」に関する不適合、「移転した権利の不適合」。「権利の一部を移転しない場合の不適合」がある。 責任追及の方法は、「追完請求」「代金減額請求」「契約の解除」「損害賠償」の4種類だ。 買主の善意・悪意にかかわりなく、これらの責任追及をすることができる。ただし、契約不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、売主に対して 追及請求、代金減額請求、契約の解除をすることができない。
2 契約不適合の種類
1、目的物の契約不適合(1)種類・品質
引き渡された目的物である建物の屋根に欠陥があり雨漏りが生じているばあいなどが典型的な例だ。
なお、種類・品質に関する契約不適合には、物質面のでの欠陥のみならず、環境での欠陥(日照、景観阻害など)や心理的欠陥(隣人した住居用建物内で自殺があったばあいなど) も含まれる。
(2)数量
引き渡された目的物である土地の面積が、契約で予定されていた面積と異なっていることである。具体的には、契約上は100m2の面積の土地を1000万円で購入 すると契約したが、購入後に計測したら90m2しかなかった場合である。
2、権利に関する契約不適合
(1)移転した権利の契約不適合
売主が買主に引き渡した目的物自体は契約の内容にあっているものの、移転した権利が契約の内容に合っていない場合をいう。 具体的には、売買の目的物である土地に地上権、地役権などが存在している場合。また、売買の目的物である建物のために存在するものとされていた地上権、貸借権、 が実際には存在していない場合などである。この場合も、買主は不完全な所有権しか取得できないのであるから、売主に対して契約不適合責任を追及することができる。
(2)権利の一部を移転しない場合の不適合
権利の一部が他人にぞくする場合をいう。具体的には、不動産の売買において、所有権の一部が他人に属している場合などである。
3 契約不適合の責任の内容(買主の救済)
1、追完請求権引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対して、①目的物の修補、②代替え物の引き渡し、③ 不足分の引き渡しによる履行の追完を請求できる。この中でこの中から買主が選択して、請求することができる。ただし、買主に不相当な負担を課すものでないかぎり 、売主は買主の請求した方法とは異なる方法による履行の追完をすることができる。
2.代金減額請求権
買主が相当の期間を定めて履行の追完を勧告し、その期間内に履行の追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる。 さらに、①履行の追完が不能であるとき、②売上が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したとき、③定期行為における履行延滞の時、④追完を受ける見込みがない ことが明らかであるときは、買主は追完を催告をすることなく、直ちに代金の減額を請求できる。
3.損害賠償を請求権及び解除権
売主が買主に引き渡した目的物が契約内容に適合しない場合、買主は売主に対して、上記の請求することができるが、これらの請求は、損害賠償請求権及び解除権の 行使を妨げない。
4.買主の期間制限
1.通知期間
買主は、種類又は品質に関して契約内容に適合しない目的物を引き渡された後、その不適合を知った時から年以内に、その旨を売主に通知しなければ、追完請求権、 代金減額請求権、損害賠償請求権及び解除権を行使することができなくなる。(執権効)。ただし、売主が引き渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかった ときは、買主は上記責任を追及することができる。
なお、この期間制限は「種類又は品質」についてのみ適用され、「数量」不足の場合と、権利が契約内容に適合しない場合及び一部が他人の権利の場合には適用されない。
2.消滅時効
契約の内容に適合しないことを知った時から一年以内に売主にその旨を通知すれば、いつまでも契約不適合責任を追及することできるのであろうか。実は そうではない。買主が契約の内容に適合しないことを知った時から1年以内にその旨を売主に通知した場合には、買主が契約の内容に適合しないことを知った時から 5年、また、買主が売買の目的物の引き渡しを受けた時から10年以内に行使しなければ、時効消滅する。
5.担保責任を負わない旨の特約
担保責任の内容は特約で軽減しても加重しても良く。「売主は担保責任を負わない」旨の特約も有効である。しかし、担保 責任を負わない旨の特約をしたとしても、売主が知りがら告げなっかった事実及び自ら第三者のため設定し又は第三者に譲り渡した権利 については、その責任を免れることができない。
6.全部他人物売買
権利の全部が他人に属する場合で真の所有者が所有権の移転を確定的に拒絶している場合、抵当権が実行され所有権を失った場合など 権利の「全部」についてその物件を移転できないような場合には、売主は債務不履行責任を負う。すなわち買主は契約の解除することができ、売主に責めを帰すべき事由があれば 損害賠償請求もすることができる。
7.新築住宅の売主の担保責任の特例
サラリーマンであるAが、同じくサラリーマンあるBから、Bが長年住でいた中古住宅を買ったとしよう。Bが長年住んでいるのであるから、住むことができないような欠陥も 考えにくい。買主であるAもなんらかの欠陥があると思えば、ある程度調査して購入するであろう、代理又は媒介する宅建業者に詳しく聞くことも可能だ。
しかし、これが中古住宅ではなく、新築住宅ならどうだろう。まず、買主は「新築」ということから、欠陥を想定して購入することは考えにくい。 かといって、誰も住んだことがないのだから、重大な欠陥があっても発見しにくいこともあるだろう。また、人の生活の基盤となる住宅であり、損害は大きく、命のも かかわることだってある。そして、新築住宅の売主は、ハウスメーカーやデペロッパー等、住宅のプロpであることが多い。
そこで、新築住宅の売主には、住宅の品質確保の促進等に関する法律(以下「品確法」)で、重い責任が課せられている。
まず1点目は、①構造耐力上主要な部分(基礎)・土台。床・屋根・柱・壁等)、②雨水の進入を防止する部分(屋根・外壁・雨水排水管等)についての)瑕疵 担保責任期間を、引渡しから10年間とすること。これらは、もし瑕疵があれば住宅を安全・快適に使用することができなくなるほどの重要な部分であり、 買主にとっても瑕疵がないことを強く望む部分といえる。そこで、これらの部分の担保責任を強化しているのです。
2点目は、品確法と異なる特約で買主に不利なものは無効となること。瑕疵担保責任を負わない特約はもちろん、責任期間を10年より短縮する特約や 瑕疵補修をしないという特約に効力はない。
なお、新築住宅の売主であれば、宅建業者であろうとなかろうろ品確法の適用を受けるので、注意が必要である。
10 相続
法定相続人、法定相続分、遺言そして遺留分について抑えよう。
1 相続人には誰がなるのだろうか
死亡したAには妻B、子C・D、父E、母F、弟Gがいる。Aが誰に財産を譲り渡したいかを書き留めていれば、Aの希望どうり相続される。では、遺言がなかった 場合、誰が相続人になるのだろうか?まずは、「配偶者」(法律上婚姻している夫・妻)は常に相続人だ。そして。「子」がいれば配偶者とともに相続人となり、いなければ「直系尊属」(父母・祖父母)が 、それもいなければ「兄弟姉妹」が相続人になる。
なお、「子」には嫡出子(両親の婚姻中に産まれた子供)、嫡出でない子(両親が結婚しないで生まれた子供)。養子、胎児が含まれる。
よって、具体的な場合、妻Bと子C、子Dがが相続人になる。
2.代襲相続
Aが死亡したが、Aの子BはAの死亡以前に、死亡していたとしよう。この場合、Bが相続するはずの財産は、孫Eが代わって相続する。これを「代襲相続」という。
代襲相続」は、①相続開始以前の死亡、②相続失格(親を殺したなど)、③排除(親を虐待したなど)の場合に認められる。相続放棄をした場合は 代償しないので注意しよう。
父Aと子Bが登山に行って二人とも死亡し場合のように、どちらが先に死亡したか証明できない時は、同時に死亡したものと推定される。 この場合、AB間に相続は生じないが、Bに子がいれば代襲はおこる。
3.誰がどれだけ相続するのだろうか
法定相続分
相続人 | 相続分 | 注意事項 |
---|---|---|
配偶者と子が相続人の場合 | 配偶者=2分の1 子 =2分の1 | 子(養子・胎児を含む)分は平等 |
配偶者と直系尊属が相続人の場合 | 配偶者=3分の2 直系尊属相続=3分の1 | 直系尊属相続分は平等 |
配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合 | 配偶者=4分の3 兄弟姉妹=4分の1 | (1)兄弟姉妹相続分は平等 片親の違う兄弟姉妹は他の者の2分の1 |
配偶者Bが2分の1取った残りの2分の1を、E・F・Gで分けることになるが、摘出子Cが生きていると仮定すると、養子Eと実子Cの分け前は1:1の割合になる。 2分の1を2つに割ったうちの1つである4分の1がEの相続分、4分の1がCを代襲して相続するため、F8分の1、G8分の1となる。 結論として、相続分はB2分の1、E4分に1、F8分の1となる。 4.相続の承認・放棄
被相続人が借金まみれで死亡した場合、このまま放っておくと相続人まで借金まみれになってしまう。それを回避するのは、限定承認か相続放棄をすればよい。 限定承認とは、相続で得た財産で返せるところまで借金を返すが、返しきれない部分については返さない、という承認方法だ。一方。相続放棄は、 一切の財産を相続しないことだ。相続を放棄すると、初めから相続人とはならなかったことになる。
自分が相続人となったことを知った時から3カ月以内にどちらかをしなければ、単純承認になってしまう。単純承認は、財産も借金もすべて受け継ぐ承認方法だ
(まとめ)
全
5.遺言相続継承・放棄 | |
---|---|
時期 | 自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヵ月以内 →この期間内に限定承認または相続放棄をしない場合は単純承認となる。 |
方法 | 限定承認・相続放棄はは家庭裁判所への申述が必要。 →限定承認は、共同相続人全員が共同しなければならない。 |
撤回・取消し | 撤回できない。 →家庭裁判所への申述により、意思無能力、錯誤等による無効・取消しを主張することはできる。 |
1 遺言とは、自分の死後、財産を誰にどれだけ相続させたいか書き残しておくものだ。遺言がなければ法定相続人が法定相続分に基づき相続する。
遺言は、他人の意思が入り込まないようにするため、法律が定めた一定の法式(実筆証書遺言。公正証書、秘密証書どのた特別の方式によることが必要だ。実筆証書遺言は、 遺言者が全文、日付及び氏名を自書して印を押さなければならない。ただし、添付する相続財産目録は、自書する必要はない。自書よる記載ミスを防止するため、不動産 登記事項や預金通帳などのコピーに遺言者の署名押印したものにしてもよい。
2 遺言の撤回
遺言は、遺言者の最終的な意思を尊重するものだ。したがって、遺言はいつでも撤回できる。かならずしも遺言の方式で撤回しなくてもよく、内容の異なる新たな遺言をしたり、 故意に破棄したりしても、撤回したことになる。
3 遺言の効力
遺言の効力は、遺言者が死亡した時から生じる。
遺言の偽造変造を防止するため、現状を保存する手続きを検認という。遺言の保管者又は遺言者を発見した相続人が、家庭裁判所に提出して検認を請求する。遺言の有効・無効 を判断するものでないので、検認をせず開封してしまったとしても、遺言は無効にはならない(息子が開封してしたせいでせっかくの遺言が無効になったりしたら、死んでも死にきれない)。
遺言によって財産を他人に譲ることを「遺贈」といい、包括遺贈と特定遺贈がある。「全財産を寄贈する」「財産の3分の1を遺贈する」などという遺贈が包括遺贈、「A土地を遺贈する」「B 建物を遺贈する」など特定のの財産の遺贈が特定遺贈だ。
6.遺留分
Aが、妻BとC子を残して死亡した(遺産1億円)、遺言には「6000万円をY子に遺贈する」と書いてあった。Aの最終意思を尊重するのが遺言の目的なので、 この遺贈は有効である。しかし、これでは残されたBとCの生活が成り立たない危険がある。そこで民法は、遺言によっても侵害できない一定額をさだめている。 これ遺留分という。ところが、被相続人の兄弟姉妹には遺留分はない。被相続人の兄弟姉妹というのは、配偶者や子や老いた親とは異なり 一般的に被相続人の財産を当てにしてない場合が多いと考えられるからだ。
さて、全掲のケースでは、BとCの遺留分は合わせて相続財産の 分の1、すなわち5000万円となる。これを法定相続分に従って分けるので、B・Cそれぞれ遺留分は4分の1、すなわち2,500円ずつとなる。
遺言によって遺産が4000万円に減り、配偶者Bは2000万円、子Cも2000万円しか相続できない。BもCも遺留分が500万円侵害されている状態である。 それでもこの遺贈は有効なので、B・Cが「お父さんの希望ならばしかたない」と思うならば、財産はにYにあげたきりになる。B・Cが遺留分を取り戻したいと おもうならば、それぞれY子に対し、遺留分を侵害された額に相当する金銭の支払いを請求すればよい。これを「遺留分侵害額請求」という。
妻Bが「Y子さんに損害額の請求してまで財産を欲しいと思わない」という気持ちなら、遺留分を放棄すればよい。遺留分をほうきしても相続は可能で、 2000万円については相続できる。だが、B子が「私さえ遺留分を放棄すれば息子Cの遺留分が増える」と期待しているとしたら、見当違いである。相続放棄とは異なり、 遺留分を放棄しても他の共同相続人の遺留分は増加しないのだ。